幹線が次々に電化され、大型蒸機が淘汰駆逐されてゆくなかC59,C62が揃った呉線は最後の大型蒸機の牙城であった。三原から瀬戸内海沿いに竹原、広、呉、海田市までの87km。広を境に東側は海沿いの風光明媚な区間、そして西側の通勤通学列車が行き交う列車本数の多い区間と二つの顔を持っていた。
朝、3本の列車が並ぶ広駅、広い構内持った呉駅、半逆光の光線が美しい小屋浦駅。それぞれの駅の出発が狙い目で、歩かなくてすむこと。、必ず煙が期待できることなどお手軽な割に良い写真が撮れる好撮影地であった。15分から20分おきに次々とやって来る5本の列車をアングルを変えながら撮り続ける1時間20分、天気が良ければ至福の朝のひとときだ。
通勤時間帯も一段落して9時頃広島から来る列車の牽引はC59。その列車に乗って東へ移動、本日第二幕目の始まりだ。安芸川尻から安登、安浦にかけての
16.7‰の勾配区間、それとも安浦ー風早、大乗ー忠海、安芸幸崎ー須波の海岸
沿いの風景を狙いに行くか、その日の天気の具合とこちらの気分で決定する。ただ残念なことに昼間帯はDC列車が多く蒸機牽引は上下合わせて数本しかない。ただし、その中でも水色の帯を締めた一等寝台を連結した寝台専用急行「安芸」はかつての本線の雰囲気を漂わせ眩しい存在だ。段々畑の畔に腰掛けて列車を待っていると連日の夜行移動の疲れで眠り込んでしまうこともあり、そこにはゆったりとした時間が流れていた。
再び長大編成の蒸機列車が活躍するのは夕方の時間帯。広島から呉、広に向けて次々とやって来る。広々とした安芸阿賀駅、安芸阿賀ー広間の黒瀬川にかかる鉄橋が僕の好きな撮影ポイント、共に半逆光ギラリが狙える場所だ。
夕陽が落ちた後は停車時間が比較的長い呉駅で三脚を立てて夜間撮影、長かった一日が静かに終わっていった