小学生の時「好きな季節はなんですか?」という質問に、僕は「晩秋」と答えてしまった。「ものの哀れ」が分かっていたわけではなく、「泳げるから夏が良い」とか「雪が降るから冬が良い」と言っている級友たちからは完全に浮いてしまい、生意気なガキを扱いかねたか、教師の溜め息が聞こえてきた。
だから、ではないが、僕は晩秋が大好きだ。 冷え込んだ朝、ピーンと張りつめた空気の中、加減弁をすっと開けたときに出る白煙の美しさよ! 厳冬期の北海道のカマが見せる逞しい白煙がまるで真綿の塊だとすると、晩秋の澄んだ空に広がる白煙は透き通った薄絹のよう、繊細な香りに満ちた聖霊だ。
日豊本線宮崎以南には急勾配区間が多かったのだが、D51ではなく全てC57、55が配置されていた。輸送単位がそれほど大きくないので C形式で間に合ったからだろうか。平坦線を高速で駆け抜ける本来の姿とは違い、山間部で全身を震わせながら力を振り絞るC57たち、きっと仕事はきつかったはずだ。 南九州、特に鹿児島、宮崎のカマたちは手入れが良く、いつも磨き上げられていて美しかった。極端な改造もなく無粋な火の粉止めも付けられず、原形に近い好ましい姿を保っていた。 きりりとした細身のボイラーと大きな足回り、C57やたまにやって来るC55たちは、柔らかな斜光線をきれいな金属面に映し、秋の光の中で見るとなにかとても幸せそうに見えたものだった。